ずっとヴィーガン暮らし

薬草学の母ヒルデガルトに憧れて植物療法を学んでいます

神様のホテル~現代に蘇るヒルデガルト医療

「神様のホテル 奇跡の病院で過ごした20年間」(ビクトリア・スウィート著)という本を読みました。全米でベストセラーになり、この本によってアメリカでヒルデガルトブームが起こったと聞き、興味を持ちました。

 

アメリカで最後の救貧院と言われる「ラグナ・ホンダ病院」で働く女性医師によるノンフィクションで、2012年カリフォルニア州のノンフィクション大賞を受賞、2013年には優れたノンフィクションに与えられるガルブレイス賞にノミネートされたそうです。

 

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ラグナ・ホンダ病院は「神様のホテル」と呼ばれ、貧困のため病院に行けない人、快復の見込みがなく治療を投げ出された人など、他に行き場所のない社会的弱者のための最後の砦、シェルターのような存在で、時間をかけて患者とじっくり向き合う「スロー・メディスン」が行われていました。

 

著者のスウィート氏は医学部を卒業し、現代医学の理論のもとで医師になったものの、「患者に感じる形のないエネルギー」「生きている肉体にあって、死体に欠けているなにか」「目に見えるものと見えないものの確かなつながり」について考えるようになり、現代医学には見当たらない「なにか」を探すようになります。

 

そんなときに「聖ヒルデガルトの治療学」という1冊の本に出合うのです。聖ヒルデガルトは今でこそ中世ヨーロッパ最大の賢女と呼ばれていますが、いわゆるヒルデガルト・ルネッサンスで現代に蘇るまで、なんと誰にも知られず800年ぐらいその存在が埋もれていた女性です。

 

私は興奮した。なぜならそこに記されている医学を根底で支えていたのは、私が目撃し、長年胸の内にしまい続けてきたものと同じ世界だったのだ。

 

スウィート氏はヒルデガルトの医療を研究しようと、病院に勤務しながら大学院に通い修士、博士課程を通して、どっぷりとヒルデガルト研究に取り組みます。また、中世の医療を理解しようと、中世のやり方でスペインの聖地へ巡礼の旅にも出かけます。

 

研究していく中で、古代医療はヒポクラテスに始まり「2400年もの間、西洋でただひとつの医療体系として確立していた」のに、突然「19世紀末のたった数十年間に、急速に現代医療に取って代わられ」てしまったのは何故なのか、何が失われてしまったのかを考えます。

 

そして古代医療の基本的な考え方、土・水・空気・火の宇宙の四元素を人体の四つの体液と結びつけた体液病理説について、次のように感じます。

 

それは優雅で哲学的なシステムであっただけでなく、現実の患者の、現実の病気に効く、現実的な医療に通じる部分が多くあったのだ。

 

彼女はあらゆる現代医療を施しても、もはや治療困難な状態に陥った患者を前に途方に暮れ「ヒルデガルトならどうしただろう」と自身に問いかけます。

 

ヒルデガルトなら、テリーの巨大な傷をどう治療するだろう?ヒルデガルトなら、テリーのウィリディタス、つまりテリーの自然治癒力を阻害しているものを、取り除こうとするに違いない。

 

目の前の患者に対し、複雑な調合薬を処方するのをやめ、自身のもつ自然治癒力が最大限活性化するように、邪魔するものを排除していく。そして新鮮な空気、日光、水分、食事など四元素によってそれを補強していく。

 

ヒルデガルトの治療法は、驚くほどの早さで効果を発揮した。(中略)その回復ぶりは魔法のようだった。

 

彼女はたくさんの患者と向き合い「集中治療室、輸血、抗生物質を生んだ現代医療はとても貴重」だとしながらも「現代医療だけでは不十分」であり「ヒルデガルトと古代医療の力も必要だ」と言う。つまり細胞レベルに焦点を絞る「コンピューター・プログラマーの手法」ではなく、患者を観察し、全体のバランスを見る「庭師の手法」が必要だと。

 

残念なことですが、最後の救貧院と言われたラグナ・ホンダ病院も時代の変化には逆らえず、経営健全化のため「無駄」「スロー」「余剰」な人員・スペース・やり方は排除され、より効率重視の施設へと変化していきます。

 

私はハーブの世界からヒルデガルトに出会い、主に「薬草学の母」と言われる面だけを学んできましたが、この本の著者が医療の現場で20年間に渡り患者さんと向き合ったエピソードは胸を打ち、改めて現代に蘇るヒルデガルトはすごいなと感じました。

 


神様のホテル 「奇跡の病院」で過ごした20年間

 

 

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