ヒルデガルト昇天祭
9月17日は薬草学の母ヒルデガルト・フォン・ビンゲンが亡くなった日です。ドイツの聖ヒルデガルト巡礼教会では毎年昇天祭が行われ、世界各国から祈りを捧げに訪れる人々でにぎわうそうです。
ヨーロッパ最高の賢女、フェミニストの先駆けと言われるヒルデガルト。2012年にローマカトリック教会から偉大な業績を残した聖人として「教会博士」の称号が与えられ、「聖」ヒルデガルトとなりました。
今でこそ評価が高まるヒルデガルトですが、12世紀に活躍したその功績が現代に蘇るまでにはずいぶん時間がかかりました。
第二次世界大戦の最中、軍医だったヘルツカ博士は負傷した兵士たちの治療に当たっていました。ところが敗戦の色が濃くなる中、薬も不足し治療するすべもなく途方にくれていました。そんなとき、たまたまボロボロになった中世の医学書を見つけたのです。
そこに書いてある薬草治療を、野原に生えている薬草を使って傷病兵士たちに施すと、抜群の効果があったのです。そして戦後になって彼は、300種類以上の薬草を研究したヒルデガルトの著書を翻訳し、現代に蘇らせたのです。
フェンネルのお茶
ヒルデガルトの昇天祭には行けませんが、学んでいる者として中世ドイツに想いを寄せながら、フェンネルのお茶を入れ、祈りを捧げたいと思います。
フェンネルはヒルデガルトの自然療法で、スペルト小麦、ガランガルとともに、体を癒す効果の高い植物として重要視されていました。
ヒルデガルトの時代、ハーブはお茶では飲まれていなかったと聞き、始めはなぜだろうと不思議に思ったのですが、当時は水が汚くて、今私たちがポットで入れているようなやり方ではハーブティーは飲めなかったそうです。私はなんて時代に対する想像力が欠如していたのか、現代の当たり前は当たり前ではないんですね。
薬草利用はもっぱらワイン。修道院ではワインにハーブを入れてぐつぐつ煮込んで薬草ワインを作っていたとのこと。私も以前、ヒルデガルトの薬草ワインを習って来ましたよ✨
そんな中、フェンネルはヒルデガルトが唯一お茶で飲みましょうと言って、ハーブティーとして飲まれたハーブだそうです。ただ、やはり水が汚いのでお湯でぐつぐつ煮たらしいのですが・・・なんか、苦そうですね。
フェンネルは消化器系の万能薬として、腸内に溜まったガスを出したり、胃腸を整える働きがあるとされています。ドイツでは子供が腹痛を訴えると、お母さんがフェンネルのお茶を入れて飲ませるそうです。日本でも江戸時代には種を乾燥させ胃薬として使われたというから驚きました。
お茶にする前に、乳鉢に入れて種を少しつぶしておきます。
中国では皇帝の前に出る時、口臭予防としてフェンネルの種を噛んだという逸話も残っているとか。私も真似して種をちょっとつまんでみました。うーん、口の中に何とも言えないスパイシーな味が広がります!
ジャーマンカモミールもブレンドしてみました。
ハーブティーは成分がお湯に溶け出して、色が変わっていくのを見たり、香りをかいで癒されるそんなゆったりとした時間が好きです。もちろん、お茶もおいしかったです!
フェンネルの種子は空腹をやわらげることで知られ、ローマ人はやせ薬として利用したそうです。キリスト教徒は断食の時期に種子をかみ、本当は食べていないのに食べたように感じさせるからと、シェイクスピアはそれをいつわりの象徴として比喩に用いたそうです。(ハーブの歴史百科より)
なるほど、だからヒルデガルトのファスティングティー(断食のお茶)にもフェンネルがブレンドされているのか~今わかった! こんなふうに何かに気づくってうれしいですね。
今年はコロナのため、昇天祭はYouTubeで流されると聞きましたが、見れるといいな。
まだまだ男性優位で女性の権利が低かった時代に女子修道院長となり、修道院の薬局を開放するなど、弱者救済のために奔走したヒルデガルト。 王様や貴族にもはっきりと意見を述べ、抗議することもあったといいます。
当時の平均寿命が30~40歳ぐらいだというのに、60歳から説法の旅に出てあちこちを回り、81歳で亡くなるまで精力的に活動を続けたそうです。今で言えば本当にスーパーウーマンですね。
何百年もの間埋もれていた一人の女性の叡智が現代に蘇り、多くの人々を魅了している。自分もまたその一人で、今こうして学んでいるというご縁。1179年9月17日にヒルデガルトが亡くなってから841年が経過した2020年の今、フェンネルのお茶を飲みながら、この不思議な出会いについて暫し考えました。