自然界への興味はハーブからでした。まだまだハーブも勉強中ですが、最近はなぜか大樹に惹かれるんです。
樹齢何百年、何千年という大樹。自分が生まれるずっと前からそこに存在していて、いろんな歴史を見ている。変わらずずっとそこにある存在。
神社には御神木と言われる大樹があって、近寄っただけで身がキリっと引き締まるような、浄化された場の空気を感じます。
森林浴、森林セラピーという言葉もあるように、誰でも木の側にいるだけでなぜかほっとする、落ち着く、癒されるといった感覚はあるのではないでしょうか。
精神面だけではありません。古くから木は薬として人間を助けてくれました。キナノキのキニーネがマラリアに、ユソウボク(癒瘡木)のグアヤクが梅毒に治療として使われ、近代ではセイヨウシロヤナギやメドスイートから取り出したサリシンからアスピリンが作られるようになりました。
木は人間の言葉が理解できるという人もいるし、実際に木と対話できる人もいるらしいですね。まあ、そういうこともあるだろうなと思います。私はまだ対話はできないけど、木の側に行ったら必ず樹皮に触れたり、耳を当てたり、ハグしてみたり、いろいろ交流を試みてはいますよ。
さて、クリスマスには欠かせないモミの木。50種類ぐらいあり、日本のモミの木と西洋モミの木は違うそうですが、ツリーと言えばやっぱりモミの木ですよね。
なぜモミの木がクリスマスツリーに使われるようになったのか調べてみると、ヨーロッパでは日照時間が短くなる冬は「死が近づく時期」と恐れられていて、冬でも元気に緑の葉をつけている常緑樹であるモミの木は「永遠の命の象徴」と考えられたそうです。
でも、それだけじゃないから驚きです。モミの木には免疫力を高めるフィトンチッドがたっぷり含まれていて、樹皮のオイルには喉の痛みや気管支炎などの呼吸器系・肺に働きかける作用があるということ。
昔はツリー用のモミの木を森から切って直接運んだので、運んでいる最中、車の中はモミの木の香りであふれ、森林浴をしているように癒されたという話も聞きます。
免疫力の落ちる冬の時期。日照時間が短くなって気分も落ち込む時に、モミの木をツリーとして家の中に飾っておくだけで、体にも心にも癒しの効果を発揮してくれていたんですね。
人間の伝統行事に使われる植物には必ず意味がある。自然界にどれだけ魔法が隠されているのかと驚くばかりです。
モミの木はとにかく上へ上へと成長する木で、もし幹の先端が折れたとしても、横に広がることなく、そこから若枝が出て上へ上へと成長するそうです。ドイツ語には「モミの木のようにすらりとした」という言葉もあるそうな。
地面から上がっていった樹液がこんなに高い木のてっぺんにまで運ばれるとは。大地にしっかり張った根と天上の光を受ける先端。まるで天界へ届きそうな勢いですね。
自然が生み出すハーモニー。まるで地上界と天界のコラボのような美しさ。境界があるようでないような。
ドイツ薬草学の母と言われるヒルデガルトも治療にモミの木を使っていました。900年前に書かれた「フィジカ」の中に、「モミの樹皮、葉、木片と半分の量のセージを加え、とろりとするまで煮込む」と処方があります。
そうしてできた軟膏を頭皮や心臓、脾臓など病んでいるところに塗り込む。また肺が病んでいる人の治療としてモミの木を燃やした灰に薬草を加えて煮込むワインの記述もあります。
クナイプ療法で有名なクナイプ神父も「モミの木から発散される芳香だけでも肺を強める作用がある」と小さなモミの木の鉢を室内に置くことを勧めています。
そんな歴史のあるモミの木ですが、年々生育環境が厳しくなっているようです。
「大樹は環境のバロメーター」
そんな言葉が示しているように、ある場所で大樹が枯れるということは環境に激しい変化が起きたということ。移動できる人間や動物と違って、植物は根を張ってその場所で生きるしかない。
考えてみたら、クリスマスにモミの木を室内に飾るという習慣は、大変崇高で人間にとってはありがたい癒しなんですね。