以前にポリヴェーガル理論に関する内容を書いた。素人が入り口の、そのまた入り口辺りに立って、おもしろいなぁと感じたことだけを書いた。
自律神経って交感神経と副交感神経の2つだと思っていたら、哺乳類には3つあって、「つながりを育む」という哺乳類だけが発達させた社会性に関わる神経があるとのことだった。
ポリヴェーガル理論を生み出したポージェス博士は、副交感神経を「背側迷走神経」と「腹側迷走神経」の2つに分けた。
<発達の歴史>
・背側迷走神経(ブレーキモード)
消化やリラックスを司る。危機に瀕した時は急ブレーキをかけ、呼吸や心臓の働きを遅くし、凍りつき・シャットダウンを引き起こす。
↓
・交感神経(アクセスモード)
活動を司る。戦うか、逃げるかの反応をする神経。
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・腹側迷走神経(つながりモード)
仲間とのつながり、安全に気持ちよく暮らしていくためのもの。
哺乳類だけが発達させた「つながりモード」のワークがすごく面白くて、自分もいろいろやってみた話を書いた。
すっかり忘れていた頃に、偶然この理論に関する本に出合った。読んでみると、ポリヴェーガル理論が広く知られることで救われる人たちがいることを知った。
なぜ私は凍りついたのか: ポリヴェーガル理論で読み解く性暴力と癒し
この本は、精神科医やセラピスト、検事など様々な分野の専門家たちによるパネルディスカッションを本にしたもので、ポージェス博士もオンラインで参加している。
性暴力にあった被害者たちが勇気を出して声を上げたり、加害者を訴えようとした時に必ず聞かれる言葉。
「なぜ大声を出して助けを求めなかったのか」
「なぜ強く抵抗して逃げなかったのか」
そう聞かれても「体が硬直して動けなかった」「頭が真っ白になって覚えていない」としか答えられずに、裁判で不利になってしまう。
その答えがポリヴェーガル理論の中にあるのではと、専門家たちの間で理解と期待が深まっているのだ。
敵に遭遇した時に、まず「逃げるか、戦うか」で交感神経が優位になる。ところが生命の危機に瀕した場合は背側迷走神経が発動され、「凍りつき」「シャットダウン」が起こるというのだ。
肉食獣は獲物が動かなくなると食べ物ではないと判断するので、こうした「仮死状態」は生き残りをかけて神経系が発動するフリーズモード、身体的防衛反応だそうだ。
ポージェス博士が語った中に、印象的な話があった。69歳になる女性からメールをもらったというのだ。
私は、あなたが提唱されているポリヴェーガル理論について読み、身体は戦ったり逃げたりすることに代わって、動けなくなることがあるということを知りました。
彼女は18歳の時に、首を絞められ性的暴行を受けた。何年もたってから娘にそのことを話したら、「凍りついたという反応」を娘は信じられないと言い、彼女はとても恥ずかしく、娘に裁かれたと感じたそうだ。
あなたの理論を読んで、自分の反応がふつうのことで正当であったということがわかり、心から喜んでいます。私は今、泣いています。
なんということだろう。性暴力の被害にあったにもかかわらず、事件から50年もの間、自分に非があったのではとずっと苦しんでいたのだ。
折しも、刑法の性犯罪規定を大幅に見直す試案が発表された。(以下25日付け、朝日新聞記事を参考)
見直し議論のきっかけになったのは、2019年3月に全国で相次いだ4件の無罪判決だった。「抵抗が著しく困難な状態とは言えない」「大声で助けを求めていない」などが無罪の理由だという。これに対する怒りの声がフラワーデモにつながった。
被害者が声も出ず、体も動かず、まさに「凍りつき」状態だったと、なぜわからないのだろうと怒りを覚える。
今回の試案では「拒絶困難」の状況が定義されたが、被害者団体などが求めていた「不同意性交罪」の導入は見送られた。まだまだ議論は続くだろう。
それにしても、人間の体はどれほど繊細で、精密で、複雑にできているのかと改めて驚いてしまう。意識レベルではない、3つの自律神経がうまくバランスを取りながら、それぞれの状況に適応して、体を守ってくれているのだ。
今更だけど、もっと体を大事にしようと思った。