ずっとヴィーガン暮らし

菜食と薬草のおうち歳時記

和薄荷に想いを巡らせて

宮沢賢治の童話「いちょうの実」には「薄荷水」という飲み物が出てくる。いちょうの実たちがいよいよ旅立ちの日(ぎんなんが落ちる日)を迎えるのだが、落ちる途中で目が回らないか心配する場面だ。

僕はね、水筒のほかに薄荷水を用意したよ。少しやろうか。旅へ出てあんまり心持ちの悪いときはちょっと飲むといいっておっかさんがいったぜ。

この薄荷水につながる体験が賢治にはあったようだ。あるとき地質調査に出かけた賢治は、背嚢の中に薄荷糖が入っていることに気づいた。実はそれは賢治の父が入れておいてくれたものだったのだ。(「賢治童話ビジュアル事典」より)

薄荷には吐き気や頭痛、消化不良などを緩和する作用があるので、賢治の体調を心配する親心が感じられるエピソードだ。私は葉っぱの形をした薄荷飴を、薄荷オイルとともに常備している。賢治のリュックに入っていたのは、どんな形の薄荷糖だったのかな。

日本の薄荷は西洋のミントに比べて、メントールの含有量が圧倒的に多いことから、その結晶が医薬品用として世界中に輸出されていたそうだ。うちの庭にもペパーミント、スペアミント、アップルミントなどがあるが、スーッとする香りは和薄荷が圧倒的に強い。

梅雨の季節には和薄荷が大活躍する。葉っぱを千切って鼻に近づけただけで、強い刺激のある清涼感がスーッと鼻から頭まで駆け抜けて、一瞬でぼやっとした体に活を入れてくれる。和薄荷はメントフランという甘い香りの成分を含まないので、香りがきつく、辛いのが特徴だというが、まさにそれを実感する瞬間だ。

 

さて、今回はこの和薄荷を使って「薄荷水」を作ってみることにした。和薄荷25gと水250mlを用意する。家庭用蒸留器「リカロマミニ」の大きいビーカーに和薄荷と水を入れて、IHヒーターのスイッチを入れ、沸騰したら上の蓋に氷を入れる。

沸騰すると和薄荷の成分がどんどん溶け出して、水蒸気と一緒に上昇する。その蒸気が氷で冷やされると、今度は蓋を伝って小さなビーカーにポタポタ落ちる仕組みになっている。部屋中爽やかな香りに包まれて、梅雨時のうっとうしさを忘れるぐらい。蒸留の楽しみはこのプロセスにもあるのだ。

この家庭用蒸留器ではオイルまでは取れないけれど、好きな花やハーブで簡単にフローラルウォーターやハーブウォーターができるので、なかなか優れものだと思っている。

 

20分ぐらいで100mlの薄荷水が取れた。青い瓶に移したらできあがり。

冷蔵庫で冷やしておいたこの薄荷水を、目をつぶって頭からシュッシュッと浴びる。部屋にもひと吹き。じめじめした空気が一掃されて、生き返った気分だ。薄荷オイルやエタノールを加えて本格的なお掃除スプレーにしてもいいかも。

 

世界シェアの70%を占めていた時代もあったという和薄荷。全盛期には産地に「ハッカ御殿」が建ち、投機の対象にもなったという。残念ながら戦後はメントールの科学合成技術が広まり、急激に衰退してしまったそうだ。

 

こちらは「大分香りの博物館」に展示されていた和薄荷の商標ポスターだ。和薄荷の輸出が最盛を極めていた頃の様子が垣間見える。右から左へと書かれた漢字の商品名、ノスタルジックな絵、英語の説明文が一緒になっていて、なんとモダンな!私の目は釘付けになってしまった。

左には「薄荷脳」「メントールクリスタル」の文字が、右には「精々薄荷油」「ペパーミントオイル」の文字が見える。和薄荷から抽出された成分の結晶とオイル、2種類の商品が輸出されていたのだろう。"Made in Japan"の文字が誇らしい。

 

着物姿の男性と女性たちが和薄荷を干したり、束ねたりしている。富士山も見える。当時はこんな様子だったのだろうか。日本の薄荷が世界中から求められていた時代があったと思うと、なんだか感慨深い。

 

 

 
 

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