数年前から大樹巡りの旅をしている。広島の被爆樹イチョウの木の話を読んだのがきっかけだ。「75年は草木も生えない」と言われた焦土ヒロシマに、見事に蘇ったイチョウの木。だが数年間は葉っぱが扇形にならず、異形の葉を出し続けたという。物言わぬ植物がどれだけ苦しかっただろうと涙が止まらなかった。
今回は樹齢千年のオリーブの大樹があると聞き、小豆島を訪ねた。オリーブが島のシンボルになっている小豆島だが、1950年3月15日に昭和天皇が小豆島ご巡幸の際、オリーブの種をお手蒔きされたのが始まりだそうだ。それを記念して3月15日は「オリーブの日」と制定された。
フェリーが到着する土庄港からタクシーで10分ほどのところに、樹齢千年のオリーブの大樹があるという。大樹巡りの旅でいろんな大樹を見てきたけれど、どの木も唯一無二、神々しいまでの存在感を放っていた。今回の大樹はどんな姿をしているのだろう。
運転手さんによると、以前は普通に千年大樹のそばまで行って見ることができたのに、今は「千年オリーブテラス」という施設になっていて、建物で大樹が外からは見えないようになっているという。入場料1,000円を払って初めて見ることができるらしい。
「木を見るのに1,000円払うってのもねぇ、前はただで見れたのに」と、地元の運転手さんは私たち観光客にちょっと同情気味だった。
だが、このオリーブ大樹のストーリーを読んで納得がいった。今まで訪ねた大樹は元々その地に根を下ろし、地域の人々の御神木として樹齢を重ねてきたものばかりだったが、このオリーブの大樹は違うのだ。
はるか遠くのスペインのアンダルシア地方から、およそ1ヶ月をかけて10,000㎞の海路を旅し、はるばる小豆島までやってきたのだ。どれだけ多くの人々が関わり、多くの人々の想いが込められていることだろう。移植された貴重な大樹を守っていくために、入場料を取るのもやむを得ないのかもしれない。
大樹というと空高く上に伸びているイメージがあるが、このオリーブの大樹は横に枝を広げている。これは船で輸送の際、高さを3メートルに切ったからだという。もともとは8メートルあったが、コンテナに入れるために伐採されたそうだ。ちなみに重さは3トンだとか。
幹の太さは圧巻だ。葉っぱの緑が青空に映える。
このオリーブの大樹が小豆島に到着したのは2011年3月12日だという。東日本大震災の翌日なのだ。3月15日のオリーブの日に合わせて植樹式が執り行われたが、その際、東北方面へ「平和と繁栄」を祈念して黙祷が捧げられたそうだ。
千年もの間、はるか遠くのスペインの地で生きてきたオリーブの樹が、縁あってこの日本の小豆島に息づいていることを思うと不思議でしょうがないし、その生命力に圧倒される。樹齢千年ってことは、源氏物語が書かれた頃から生きてるってことだ。
コンテナで移動中にも新しい芽が出た等、大樹のストーリーはこちら ↓
千年大樹の後ろにも広々とした公園が広がっていて、とても気持ちのいい空間になっている。
この千年オリーブテラスで、ウェルカムドリンクのオリーブ茶をいただいた。オリーブの飴もあって、目を閉じ飴を舐めることに集中する「マインドフルネス瞑想」なども紹介していた。
さて、ひととおり小豆島を観光し、オリーブパスタなどをいただいて、帰路に就く前のお土産タイム。目を引いたのがオリーブご飯の素で、原材料を見てみるとオリーブ果実、清酒、食塩のみなので、シンプルでよさそうだ。もちろんオリーブ茶も忘れずに。
帰宅してからさっそく作ってみた。お米2合と合わせて、普通に炊くだけだ。器によそってからオリーブオイルと黒コショウをかける。オリーブ茶を入れ、雰囲気作りに庭のオリーブの葉っぱも飾って旅の思い出に浸る。
オリーブご飯、初めて食べたけどとても美味しかった。普通の白いご飯とオリーブがこんなに合うなんて知らなかった。クセになりそう。
庭にオリーブの木を植えて10年ほど経つが、なかなか大きくならない。図鑑を見ると、オリーブは長い時間をかけてゆっくり育ち、長生きするとある。
そうか、大きなオリーブの木陰でひとやすみ、なんてまだ遠い夢の話か。オリーブははるか昔、ハトが一枝のオリーブをくわえてきたことから、ずっと平和の象徴とされている。ノアの箱舟の話に思いを馳せながら、庭のオリーブの生長を末長く見守っていこう。