ずっとヴィーガン暮らし

薬草学の母ヒルデガルトに憧れて植物療法を学んでいます

トルストイとベジタリアニズム

まったく読んだこともなかったトルストイ。ロシアのすごい文豪として名前だけはもちろん知っていたけど。

 

ひょんなことから、彼が50歳をすぎてヴィーガンになったという話を知り、興味をもって調べていくうちに、その生き方、人間性に惹かれ、気がついたらもっともっと知りたくなっていた。自称にわかトルストイアン・・いや、いくらなんでもそれはおこがましすぎるというもの。本当のトルストイアンたちが辿った運命は過酷なものだったようだ。

  

トルストイアンとは

 

トルストイは貴族に生まれ、作家として大成功し、富や名声を得た。しかし、晩年になって精神的危機に陥り、生き方を模索するなかで、肉食を否定し、禁酒禁煙し、戦争に反対し、自ら得た富やいっさいの名声、過去の作品までも否定するようになった。

 

そんな彼の生き方はトルストイ主義と呼ばれ、世界中に彼の信奉者トルストイアンを生み出したのである。

 

晩年はロシアの片田舎ヤースナヤ・ポリャーナに引っ込み、朝4時に起きて農業をしていたトルストイ。そんな彼のもとに、世界中から彼を聖者と崇めるトルストイアンたちが訪れた。まるで聖地巡礼のように。わざわざ近くに移り住む者までいたというから、彼の思想や生き方がいかに世界中の若者たちに指針を与え、熱情をもって受け入れられたかが想像できる。

 

今から114年前、日本からも徳富蘆花がヤースナヤ・ポリャーナのトルストイを訪れている。徳富蘆花はトルストイに会うためにベジタリアンになったというから、平和主義、博愛主義、無抵抗主義とともに、ベジタリアニズムもトルストイ主義の中核をなす思想だったと思われる。

 

ところが、トルストイアンたちが実際にヤースナヤ・ポリャーナを訪れてみると、トルストイは依然として広大な土地を持つ大金持ちだという現実を目の当たりにし、信奉者の中には、彼を偽善者と呼ぶ人もいたそうだ。

 

そんなことはトルストイ自身が一番よく知っていて、著作権や財産を放棄しようと何度も試みたが、妻や周囲の反対でなかなか叶わず、自分の理想と現実のギャップに苦しんだ。だからこそ徹底した禁欲主義をつらぬき、最後には家出までしてしまうのだ。

 

retoriro.hateblo.jp

 

トルストイとベジタリアニズム

 

面白い逸話がある。妻の留守中に肉の好きな義妹が訪ねてきた。夕食はトルストイが用意することになったが・・。なんと食堂の椅子の脚に一羽のひなが結わえ付けられてバタバタともがいていた。そして義妹の席には大きな肉切り包丁が置かれていた。

 

「きみは生き物を食べるのが好きだそうだから、この鶏を用意したんだ。だがぼくは殺しをやりたくない。この包丁を使って自分で殺してくださらんかね」

 

義妹はすぐに鶏を放し、みなでベジタリアン料理を楽しんだそうだ。

こちらより引用↓ 

ベジタリアンの文化誌―食べること生きること

 

1909年にはモスクワにベジタリアン協会が設立されている。名誉会長にトルストイ。中央食堂、その横には本屋、図書館も併設され、夜には講演会やコンサートが行われた。ベジタリアン協会はトルストイ主義運動の中核的役割を担い、食堂は若きトルストイアンたちの交流の場であった。

 

しかし、暴力を否定するトルストイの考え方は軍隊の否定にもつながり、ロシア国家体制に対する反抗、危険思想とみなされ、トルストイはロシア正教会から破門される。

 

戦争に反対し、兵役を拒否したトルストイアンたちは処罰され、トルストイの死後、ベジタリアン協会の若者たちの逮捕・流刑が始まり、協会も終止符を打つことになる。

 

参考↓ 

愛と微笑みのパッション―西シベリアをめざしたトルストイ主義者たち

 

トルストイは日本の作家たちにも影響を与えた。武者小路実篤しかり、宮沢賢治しかり。

武者小路実篤の「幸福者」の中にはこんな一節が出てくる。

 

「世界が真に平和になるときは、人間は今より殺生に神経質になり、菜食主義が次第に勢力を得るだろう

 

そして「我々が、牛や豚や、羊や鳥を平気で殺して食ったのを不思議に思う」ような、菜食主義が進んだときは「科学的な食物が発明されたときであろう」とある。 

 

これって、もしかして今開発が進んでいる培養肉のこと? だとしたらすごい予見力の持ち主だなぁ。そして「人類が肉食をしない時がきたら、人類の進歩した時だ」と語ったそうだ。

 

進歩した時かどうかは私にはわからないが、禁欲とか厳しい主義主張でなく、肉を控えたり菜食を楽しんだりする人が、世界中で確実に増えているように感じている。

 

参考文献


宮沢賢治の菜食思想

 

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恥ずかしながら、こちらにも今挑戦中ですが・・・返却期日までに果たして読み終えることができるのか。さすが世界の文豪、とにかく長い~!