ローズヒップ、その赤い実は「ビタミンCの爆弾」という異名を持つほどビタミンCが豊富で、なんとレモンの20~40倍だとか。日本でも美容、健康によいと人気がある薬用ハーブです。
ヨーロッパでは古くから薬用として処方され、私が学んでいる薬草学の母、聖ヒルデガルトも「肺に痛みがある人は、ローズヒップを葉といっしょに粉にし、ハチミツを加えて煮込み、ワインを作りなさい」と言っています。(「ハーブ学名語源事典」より)
ところで宮沢賢治の童話の中には、そんなローズヒップが登場するお話があるんです。さすが賢治、野ばらの実の薬効を知っていたんですね。簡単にストーリーをご紹介します。
☆よく利く薬とえらい薬
清夫は病気のお母さんのために、今日も森へ野ばらの実を取りに行きます。そんな清夫を心配するように、野鳥たちは次々と声をかけます。つぐみ、ふくろう、よしきり、かけす、、。
「清夫さん、今日もお薬採りですか、お母さんはどうですか、バラの実はまだありますか」
鳥たちが気にしているのは、お母さんの具合と野ばらの実の残り具合。それぞれが申し合わせたように同じことを聞くんです。本当に優しい鳥たち。
清夫は一生懸命、汗だくになって野ばらの実を集めますが、その日はなかなか集められずに疲れてしまいます。そして野ばらの実をひとつ手に取り、唇に当てます。
するとピリッとして体がふるえ、
何かきれいな流れが頭から手から足まですっかり洗ってしまったやう
全身がすっきりし、すがすがしい気分になったようです。体が浄化されたのでしょうか。
そして、目も耳も鼻も敏感になって、空の青さや草の下の苔がはっきり見えたり、かすかな音が聞こえたり、木の匂いまで感じられるようになります。体が覚醒したのでしょうか。
家に持ち帰り、お母さんもその野ばらの実を水に入れて飲むと、起き上がれるぐらい元気になりました。
清夫の不思議な野ばらの実の話は評判になり、人々は「きっと神様が清夫に授けたんだろう」と考えますが、ここで欲張りな偽金遣いの大三が登場。なんとしても不思議な野ばらの実を採ろうと100人も動員して探しに出かけるのですが、、。
童話には必ず悪いやつが出て来ますね(笑)
案の定、大三は不思議な透き通った野ばらの実は見つけられず、偽金作りの工場で普通のバラの実に、ガラスのかけら・塩酸・水銀を合わせてふいごにかけ、出来上がった透明なものを飲むのですが、どうやらそれは猛毒だったようで死んでしまいます。
ほんの短いお話ですが、その中には「脚気はビタミン不足から」とか、出来上がった猛毒は「昇汞」という物質であった等、ちょっとした文から賢治の博学ぶりが感じられます。
そして母のために汗だくになって野ばらの実を探す清夫を心配し、声をかける野鳥たち。ここにも賢治の理想の世界、自然の中でいろいろな生き物たちと共に生きる姿が描かれています。
野ばらの実にパワーをもらった清夫と、元気になったお母さん。自然の中に人を治し癒してくれる宝物が存在していることを、賢治はよく知っていた。そして後世の私たちにも童話で教えてくれるなんて、改めてすごい人だなと感じました。
私もローズヒップは常備して、ハーブティーのブレンドには必ずローズヒップを入れています。感染症予防やビタミンC消耗時の補給によいそうですよ。お茶の後のローズヒップは煮詰めてジャムにして、捨てずにいただきます。
ハーブティーで飲むローズヒップはドッグローズという種類で、日本の野ばらの実はハーブティーではなく生薬として使われるそうです。
この童話のように、身近な人を助けるために森へ行って薬草を採って来るような暮らしに憧れます。ただ今の私は全くの実力不足。森へ行っても宝物は見つけられないでしょう。買うばかりの生活が恥ずかしくなります。
夏の自然療法のレッスンでは、虫刺されケア用に「蛇いちごのティンクチャー」を作る実習があったのですが、私はどこへ行ったら蛇いちごが見つけられるのかもわからず、作れませんでした(号泣)
私が憧れる「本物の暮らし」とはほど遠い感がありますが、宮沢賢治はじめ、賢人の知恵をもっともっと勉強し、少しでも生活に取り入れたいと思っています。