高知一人旅~その②「牧野植物園」
最初のうちは写真を撮るのに夢中だった。せっかく来たのだから、しっかり見て、旅の記録に残そうと張り切っていた。
でも、途中から「今・ここにいる」ことをもっと感じて、味わおうと思うようになった。
幸い観光客もそれほど多くはなく、私のように一人で回っている人もいる。ただベンチに座ってぼーっとしているように見える人も意外と多い。みんなこの植物園で思い思いの過ごし方をしているようだ。
感慨深い場所なのだ。植物が大好きで、好奇心旺盛な、一人の土佐の少年がいたこと。彼の歩んだ人生が、こんな素晴らしい植物園に繋がったこと。そしてそのおかげで、自分が今こうしてここにいること。
ベンチがたくさんあるので、立ち止まって一息つく回数が増えた。実にいろんな風景を見せてくれる植物園だ。
木の橋を渡って、蜀紅蓮(しょっこうれん)というハスに近づく。日本のハスの中で最も紅が濃いらしいが、花はまだ。
期間限定の特別公開「ガンゼキラン大群落」があった。ここへ行くのも一苦労。起伏のある山道?を登ったり下りたり。
乱獲されて一度は山から消えてしまったガンゼキラン。心ある農家さんが保護して増殖し、今は植物園が受け継ぎ、管理している絶滅危機の植物だそうだ。
この先に大群落が広がっているのが見えるけど、体力を使い果たし入り口付近でギブアップ。遠目に見て、来た道を引き返す。次は温室が待っている。
途中、大きな木に癒されながら進んで行く。木ひとつ見ても表情が違うから飽きることがない。
遠くに見えるのが温室かな。この石段を下りて、、まさかまた登る?
ようやく温室に辿り着いた。外観も個性的だ。
入り口付近は天井が吹き抜けになっていて、空が見える。
中はまるで別世界。南国だ。
お釈迦様がこの木の下で悟りを開いたといわれる、インドボダイジュがあった。「印度菩提樹、クワ科、仏教三大聖樹の一つ」
寒さに弱いので、多くの寺院では代用としてシナノキ科のボダイジュを植えるとある。
こちらはヒスイカズラと言う植物。ルソン島など、限られたところにしか自生しておらず、絶滅の危機。コウモリが花粉を運ぶと言われるが、この花の色は花粉媒介者を誘引するためと考えられているそうだ。確かに色と言い、形と言い、街中では見られない魅惑的な花だ。
大きなハスが目を引いた。オオオニバスと言い、南米のアマゾン川水系に分布するそうだ。
そろそろ帰りのバスの時間だ。温室は一番端っこの南門付近にあるので、また園内を通って正門に戻る。いよいよ牧野植物園ともお別れか、、。
途中スエコザサの所に、こんな石碑が立っていた。牧野博士は仙台で新種のササを発見し、妻・壽衛(寿衛子)への永遠の感謝を込めて「スエコザサ」と命名し、学名にもその名をつけて発表したという。
文献の購入や調査旅行など、研究には膨大な費用がかかったため、夫人の苦労は並大抵ではなかったという。借金のかたに家具を差し押さえられ、ちゃぶ台一つで過ごした時もあったという。博士より30年も早く54歳で亡くなっている。(参考「牧野富太郎の本」)
家守りし 妻の恵みや わが学び
世の中の あらん限りや スエコ笹
最後に入り口付近のショップでお土産を買った。博士の植物図のファイル、一筆箋、そして本。
朝ドラ「らんまん」のタイトルは「春らんまんの明治の世を、天真らんまんに駆け抜けたーある天才植物学者の物語」ということでつけられたようだが、博士の写真はどれも満面の笑顔で、本当に素敵だ。
博士ゆかりの植物をテーマにしたお茶もあったので、4種類すべて購入。それぞれに桑の葉やドクダミ、ハブ茶、生姜などがいろいろ入っている、植物園のオリジナルブレンドだ。
ちなみに夫人の名が命名された「スエコザサ」には、釜炒り茶・ドクダミ・スエコザサ・ペパーミントがブレンドされている。どんな味がするのか楽しみだ。
若い時に偶然手にして魅了された、牧野富太郎博士の植物図鑑。あれから何十年も経て、やっとこの高知の地まで辿り着いた。わずか半日程度の滞在だったけど、この上ない喜びを感じながら牧野植物園を後にした。
高知旅行はまだ続く。