ずっとヴィーガン暮らし

薬草学の母ヒルデガルトに憧れて植物療法を学んでいます

読みたいのに読み終わるのが淋しい本

今週のお題「読みたい本」

今読んでいる本があります。話題になっていたので早速図書館に予約し、やっと順番が回って来たところなのですが、、。まるで映画を観ているかのように情景が鮮明に浮かび上がり、登場人物たちの心情が胸に響いて、なかなか先に進めないのです。

 

そのページにずっと留まって味わいたくなる不思議な本。

 

「あなたを想う花」上・下 ヴァレリー・ぺラン

<Amazonの本の紹介より>

フランスで130万部突破の国際的ベストセラー
2020年イタリアで一番売れた本
2022年ノルウェーで一番売れた本
ウォールストリートジャーナルが選ぶベストブックに選出

 

ネタバレにならないように簡単にご紹介すると、主人公の女性ヴィオレットはたった一人で「墓地の管理人」をしています。墓地の花を手入れし、墓参者たちの話に耳を傾け、悲しみに寄り添いながら、そこに眠る人々の人生に思いを馳せる。

 

素晴らしいのは構成で、2つの軸が交差しながら進みます。

 

一つは、墓地で働く彼女の現在の物語。これが横軸。墓地に眠る人々と、墓地を訪れる人たち、その関係性からいくつものエピソードが丁寧に描かれ、いくつもの人生が浮かび上がります。

 

もう一つは彼女自身の人生の物語。これが縦軸。誕生の瞬間から、子供時代、恋、結婚、出産など時間の流れに沿って描かれていきます。そして、たった一人で墓地の管理人をしている現在に至るまでが、ミステリーの謎解きのように進んでいきます。

 

2つの軸が巧みに絡み合い、過去と現在を行ったり来たりしながら、ひとりの女性の壮絶な人生と心の内が繊細に描かれます。

 

そして各章の始めには、人生や死にまつわるエピグラフが記されていて、思わず書き留めたくなります。粋な構成だなぁ。それは墓碑に使われる言葉だったり、有名なフレーズだったり。私が特に気に入ったのが、こちらの文。

人生という書物は、絶対的な書物だ。勝手に閉じることも、閉じたあとで開くこともできない。好きなページに戻りたいと思っても、それもできない。そして

ページをめくった最後には、死が記されている。

アルフォンス・ド・ラマルティーヌ「サイン帳に書いた詩句」

図書館の本だから返却期限があって、それまでに読み終わらなければならない。わかっているけど、読み終わるのが惜しいんです。時空を超えて、小説の中の登場人物たちの人生がとてもリアルに迫ってくるので、その世界から出たくない。

 

そう思っていたのは私だけではありませんでした。作家の小池真理子さんがこの本について次のように述べています。

 

「ふしぎな小説だ。謎めいた物語の先を追うよりも、心の情景に浸っていたくなる。美しい散文詩のような、喪失と再生の記録」

 

まさにその通り。浸っていたくなる本なんです。今、いよいよ下巻の終わりの方まで来たけど、読み終わりたくない、読み終わるのがもったりない、読み終わるのが淋しい。

 

翻訳された三本松里佳氏も、翻訳を終えた時の気持ちを「訳者あとがき」で語っています。

もう訳せないのが淋しいなんて、初めての経験でした

 

久しぶりに、ただただ小説の世界に浸るというぜいたくな読書の醍醐味を味わいました。終わりまであと数ページ。最後はこの長編小説がどういう終わり方で幕を閉じるのかを、ゆっくりと楽しみたいと思います。余韻がすごいだろうなぁ、ロスになりそう。