今年も新緑の季節がいよいよ到来だ。昨年の今頃、高知県にある牧野植物園に一人旅したのを思い出す。今、朝ドラを楽しみに見ているので、早くもまた訪れたくなった。
さて、植物療法の世界では本格的な暑さが始まる前に、必ず準備するものがある。ハーブの虫除けスプレーと虫刺されに効くローションだ。
特に「ヘビイチゴのローション」は、いろんな本によく載っているし、実際に作って使った人が「驚異的な効果」「痒みと痛みが瞬時に治まって感動」「まるで魔法水」「痒み止めの秘薬」などと絶賛するので、以前から興味津々だった。
実は一昨年に受けた植物療法のズーム講座で、実習課題が「ヘビイチゴのローション作り」だったのだが、元々インドア派の私だけがヘビイチゴを見つけられず、課題をパスしてしまったという苦い思い出がある。皆さん、それぞれお住いの地域でしっかり見つけて実習をクリアされたのに。
「どこに生えているんですか」と聞く私。
「普通にその辺に生えてるんだけどねぇ」と返答に困る先生と皆さん。
「その辺って、具体的には?」とツッコむ私。
「・・・・・」
リベンジ、リベンジと思いながら昨年も見つけられず(旅行中にはあったのに)今年こそはと積極的に歩き回ったおかげで、なんとかローションを作るぐらいのヘビイチゴを手に入れることができた。
同じ場所に、大きいのや小さいのがたくさん生えていて、ヘビイチゴにもいろんな種類があるのかなと思って採って来たけど、後で調べてみたら大きいのは野イチゴだった。(野イチゴはラズベリーの仲間で美味しいけど、ヘビイチゴは別物で味はないらしい)
ローションの作り方は簡単で、焼酎に浸けるだけ。ハーブの世界ではウォッカでチンキを作るので、ウォッカに浸けることにした。
上から覗くとこんな感じ。野イチゴも間違って一緒に浸けちゃったけど、大丈夫だったかな。野イチゴだけ取り出して、マフィンでも焼こうか。
最初のうちは瓶を時々揺すって混ぜる。そうするとヘビイチゴの赤い色がだんだん抜けてきて、赤茶色っぽい液体になるらしい。浸ける期間は1ヶ月と言う人もいるし、3ヶ月と言う人もいる。きれいに濾すと次のシーズンまで1年は使えるそうだ。
今年はヘビイチゴが見つけられて本当によかった。2年遅れだけど実習がクリアできて最高の気分。果たして虫刺されやあせもにどれだけ効くのか、早く自分の体で試してみたいなぁ。マムシに咬まれた時に重宝したと書いている方がいた。そんなにすごいの?
使い方は、麺棒やコットンに染みこませて直接患部に塗ったり、スプレー容器に移して、シュッっと吹きかけたり。ただし、アルコールに弱い人や子供は、水で薄めて使ったほうがよいそうだ。
へびいちごローションで検索したら、なんとヨモギで有名な、あの「若杉ばあちゃん」のところで売っていた。うーん、ラベルも可愛くて買ってみたい気もするけど。
それにしても、ヘビイチゴって古くから漢方でも抗炎症に用いられてきた優れものらしいけど、「蛇」という名前がつくからか、なんか怖いし、怪しいイメージがある。無毒なのに「毒苺」という別名まで付けられて。ちなみに花言葉は「可憐」「小悪魔のような魅力」だそうだ。
名前の響きから、つい怪しい雰囲気を感じてしまうヘビイチゴだが、名前の由来には諸説あるようだ。生薬の「蛇苺(じゃも)」を日本語読みした、蛇のように地面を這って生育するから、蛇が食べるイチゴと考えられていた、蛇がよく出る森に生えるから、等々。
試しにAmazonでヘビイチゴを検索したら、意外にも小説や映画が出てきてびっくり。小悪魔、毒などヘビイチゴの持つ怪しいイメージには想像力・創作力をかき立てる魅力があるのか。かの萩原朔太郎にも「蛇苺」という詩があった。
實は成りぬ 草場かげ 小やかに 赤うして 名も知らぬ 實は成りぬ
大空みれば 日は遠しや 輝輝たる夏の午さがり 野路に隠れて 唱ふもの
魔よ 名を蛇と呼ばれて 拗者の 呪ひ歌 節なれぬ
野に生ひて 光なき身の 運命悲しや 世を逆に 感じては
のろはれし 夏の日を 妖艶の 蠱物と 接吻交わす蛇苺
日本には「和ハーブ」と呼ばれる、たくさんの野草・薬草がある。このヘビイチゴも昔から民間療法でよく利用されてきたという。
珍しい、貴重な薬草と違って、身近な場所に、あふれるような生命力で繁殖しているのは「誰にでも見つけられるように」という自然の神様の思し召しなのだろうか。ヨモギも然り、ドクダミも然り。こんな私でも見つけられたのだから、ありがたい話だ。