ずっとヴィーガン暮らし

薬草学の母ヒルデガルトに憧れて植物療法を学んでいます

野草の手紙   心洗われる美しい本に出合いました

「世界を変えることはできなくても、自分を変えることなら可能です。ひとり、またひとりと自分を変えていく。世界が変わるとはそういうことなのです。そして、あるとき、突然、共鳴が起こって世界は大きく変わるでしょう。」

 

日本での講演でこう語ったのは、「生命平和(ライフピース)運動」活動家、ファン・デグォン(黄大権)氏。

 

韓国で100万部を超える大ベストセラー「野草の手紙」という美しい本に出合いました。

 

アメリカで政治学を学んでいたファン氏は、帰国直後に身に覚えのない無実のスパイ容疑で拘束され、2ヶ月にわたる拷問を受け、国家反逆罪で無期懲役を宣告されました。独房に入れられても諦めず、5年もの間あらゆる抵抗をし、無実を訴え続けましたがかないませんでした。政権が変わって釈放されるまで13年もの間刑務所の独房で過ごしました。

 

拷問や劣悪な環境で体を壊し、心もボロボロになったファン氏を救ったのは、刑務所の片隅で生きている雑草や虫でした。

 

絶望の中で雑草や虫を観察するうちに、ファン氏は「存在するすべての生き物は同等の価値を持ち、つながっている」と気づくのです。

 

f:id:retoriro:20200424160706j:plain

ファン氏は「雑草」ということばを使いません。それには理由があって彼自身が語っています。雑草の定義をみると「望まれない場所に生えたあらゆる草」「不適切な場所に生えた不適切な草」と人間中心主義定義がされ、「雑草撲滅のため農薬をばらまいた結果どうなっていくのか、その草の種を食べて生きている野生動物や鳥が死んでゆき、、(中略)その農薬は結局みな、わたしたちの口に入ることになるのです」と警鐘をならしています。

 

ファン氏は刑務所内に生えている野草を観察し、お茶にし、食べ、スケッチし、妹に手紙を書き続けました。それが釈放後にまとめられ出版されたのが「野草の手紙」です。

 

 こちらは新版です。私は旧版を図書館で借りて読み、とても美しい本なので手元に置きたいとネットで新版を買いましたが、野草のスケッチが大幅にカットされ、しかも白黒になっていたんです。ショック、、美しさが半減しました。中古でも旧版を買えばよかった、、、。

 

野草手紙 ~独房の小さな窓から

野草手紙 ~独房の小さな窓から

 

 こちらが旧版で著者の野草のスケッチがオールカラーで入っています。

 

また、彼は自分の尿を飲む「尿療法」を行っています。拷問と刑務所内の劣悪な環境で体を壊した彼は、自分の体はもはや自分で治すしかないと決心し、実際に野草と自分の尿で自然治癒していきます。 

13年余りの獄中生活の中で、刑務所の隅に野草を少しずつ植え、育て、研究し、しまいには100種類を超える野草園を刑務所内に作り上げるのです。

 

無実の罪で投獄されて、無期懲役になり、どれほど辛い絶望の淵にたたされたか、平凡な暮らしをしている私には想像もできませんが、そんな彼が足元の草、虫と対話するうちに人生観を変えるほどの気づきや悟りが起こるのです。

誰も目を留めることのない草と昆虫たちが見せてくれる生命の世界は、それまでわたしが人間界で積み重ねてきた知識がいかに偏っていて身勝手なものだったのかを教えてくれた。人間が誇らしく思っている文明というものは彼らの助力と犠牲の上に成り立っていて、わたしたちが今直面している生態系の危機もまた、彼らをわたしたちと同じ生命体として見つめ直さない限り克服できないことを学んだ。

 

私は野草茶が好きで、普段からどくだみ茶やびわ茶を飲んだり、「ハーブ王子の野草講座」に参加したり、ハーブの本を通して薬草の効能を勉強したりしています。でもファン氏のような圧倒的な「本物」の人を前にして、とても恥ずかしい気持ちになりました。自分がいかに「生きること」の外側で野草やハーブに関わってきたのかを身に染みて感じたのです。私は道端に生えている草を食べられるのかと。

 

私はこのファン・デグォン氏のことを辻信一氏の本の中で知りました。辻氏については以前ブログで書きました。

 

retoriro.hateblo.jp

 偶然にも辻氏はファン氏のことをこう語っています。

「生命平和思想家としての、そして変革者としてのファンの姿は、あのマハトマ・ガンディーをほうふつとさせる。

 

冒頭の言葉はまさに「善きことはゆっくり進む」という意味ですよね。

 

釈放後、ファン氏は国際人権団体アムネスティの招きで、ロンドン大学で農業生態学を学び、韓国に帰ってからは山中で自給的な暮らしを営みながら、エコロジーと平和の運動を展開しています。(「野草の手紙」より)

 

「わたしにできる最善のことは『よく生きる』こと。そしてその生き方が世界の理と調和していれば、きっと " 共鳴 " は起こります」

 

目の前の草や虫、鳥、あらゆる生命体と同調し調和の中で生きる。何かに反対し他者を否定するのではなく、自分の内面をまず平和にしていくことで、肯定的なエネルギーを生み出していく。体験に裏打ちされた強い信念と深い哲学が心に響きました。

 

裏表紙を見ると、長く白いあごひげと優しい笑顔。どこにでもいそうなおじいさんのようでもあり、全てを超越した森に暮らす仙人のようでもあり、そんな風貌もすてきでした💛