ずっとヴィーガン暮らし

薬草学の母ヒルデガルトに憧れて植物療法を学んでいます

一番わかりやすいビーガン入門書

先日、書店をぶらぶらしていて見つけた本。著者名を見て驚いた。ヴィーガンに関する本を次々と精力的に翻訳されている井上太一氏だったからだ。翻訳本ではなく、ご本人の著書が出たということか。

 

どうやらヴィーガンの実践入門書らしい。

今まで私が読んできたヴィーガンに関する本は、井上氏によって翻訳されたものが多い。

「肉食の終わり」
「さよなら肉食」
「菜食の疑問に答える13章」
「牛乳をめぐる10の神話」
「ビーガンという生き方」
「ビーガン食の栄養ガイド」

これらの本に私はたくさん影響を受けたし、「訳者あとがき」にも感銘を受けてきた。

 

retoriro.hateblo.jp

そこで今回はこの本について紹介してみたい。内容は5つの章に分かれている。

1.私がビーガンになるまで
2.動物利用の問題を考える
3.ビーガン生活ことはじめ
4.ビーガンの世渡り術
5.ビーガニズムの輪を広げるために

これだけでなく、ビーガンQ&Aや、参考になる映像作品・書籍の紹介もあり、盛り沢山で読み応えがある。

 

第1章では井上氏がビーガンになるまでの経緯が紹介されているが、ビーガン人生も百人百様、それぞれの理由やきっかけがあり、それを知ることは大変興味深い。

 

最初の転機は「アース」というドキュメンタリー映画を見て「環境を壊さない生き方を心がけよう」と決意し、その後、豚のドキュメンタリーを見て「いよいよ肉食を考え直す」ことになったそうだ。

 

それでも肉が大の好物だったこともあり、完全菜食に移行するまでには「長かった迷いの時期」というそれなりの時間があったことが記されている。私は子供の頃から動物性食品が苦手だったので、大好物を断ってまで菜食になる人の苦労は計り知れない。

 

第2章では畜産業や水産業の現状が紹介されている。著者が「読んでいてつらいところがあるかもしれません」と読者を気遣う前置きを書くほど、その現状は残酷極まりない。

私もドキュメンタリー映画や動画で何度も見たけど、一度知ってしまったら、もう知る前の生活には絶対に戻れないと感じるほど凄惨なものだ。

 

そして私たちの生活を支える動物利用が、世界の人権問題や環境破壊など膨大な問題と結びついていることも詳しく解説している。

 

第3章では食事を始めとするビーガンの生活術について紹介されている。「明日から何を食べればよいのかわからない」という人のために、食材や料理法、買い物、外食まで、ビーガン初心者のための実践編になっている。

 

私にとっては「どこまでこだわるか」という視点も新鮮だった。動物性食品を食べなくても、白砂糖やワイン・ビールの製造過程で、牛の骨炭やゼラチン、卵白など「動物の副産物」が使われている。そこまでこだわるのか、どうするのか。

 

第4章は人間関係。これは私の経験と照らし合わせても「あるある」ばかりだった。非ビーガンが圧倒的多数を占める社会で、人とどうやって付き合っていったらいいのか。会食、貰い物、質問攻め、家族との軋轢など、解決に向けた具体的なノウハウが書かれている。

 

著者は「カミングアウトする」ことが重要だと述べている。私の経験上、カミングアウトすることで人間関係は格段にやっかいになったり、隔絶されたりするけれど、生き方の問題なので、そこを曖昧に誤魔化してはいけないということだろう。

 

第5章はビーガニズムを広めるための活動についてだ。ビーガンというと極端な社会正義を訴える人々と思われるのか、反感を抱く人もいるようだ。私自身も、ただ「ヴィーガンの暮らし」をブログに書いているだけで「ヴィーガンは栄養が脳に行かないから頭が悪い」などと悪口を書かれたこともある。

 

かつては動物製品の消費者だった「今ビーガンになっている人々」が、「これからビーガンになる人々」とどう対話していけばよいのか、どうやってビーガンの輪を広める活動をしていけばよいのか、具体的な提案をしている。

 

全体を読んでみて、こんなに丁寧に、多岐に渡ってヴィーガンについて書かれた本が今まであっただろうかと思った。ヴィーガニズムを理解するための解説書としても、ヴィーガンを実践するための入門書としても、大変わかりやすく素晴らしい本だ。

 

私が一番印象に残ったのは、井上氏の厳しい姿勢だ。次の言葉にハッとした。

最後にひとつ、大事な心がまえを述べておきますと、ビーガンとしての生活を貫くうえでは、「できる範囲でやる」ではなく「どうすればできるかを考える」という姿勢が鍵になります。

「週末ヴィーガン」「ゆるヴィーガン」などの言葉もよく聞くけど、最初から「できる範囲でいいや」と決めてしまうのではなく、自分なりに模索し続ける姿勢が大切だということだ。

 

たくさんインスパイアされた素晴らしい本だったので、おススメします。ヴィーガンの人も、そうじゃない人にも、是非是非。

 

*私は普段「ヴィーガン」表記を使っていますが、この本は「ビーガン」と書いてあるので内容については全て「ビーガン」と書きました。