アメリカで異例のロングランヒットを続けたというドキュメンタリー映画「素晴らしき、きのこの世界」を観て来ました。
きのこ類は大好きで、いつも食べている身近な存在でしたが、きのこがこんなにも美しく、ミステリアスな存在だとは知りませんでした。
監督はルイ・シュワルツバーグ氏。自然の美や神秘をタイムラプス(微速度撮影)で30年も撮り続けている方だそうです。
目に見えない土の中の世界。そこに菌類のネットワークが張り巡らされていて、なにやら物を腐らせたり、分解したりして、豊かな土壌を作っている。私たち人間がこんなに菌類の恩恵に与っているとは。
「奥深く、あまりに美しい。怪しげな小宇宙、きのこワールドへようこそ」
今きのこは環境問題の救世主として、癌やうつ病の新しい治療薬として注目されているそうです。
地面からニョキニョキ、ニョキニョキっと次々と姿を現すきのこたち。実に様々な形・色・大きさのきのこが、映画の冒頭からこれでもかこれでもかと顔を出します。
実はスーパースローカメラで長時間に渡って撮られた、きのこの成長の様子。時間を凝縮して再現された映像は、まるでCGを見ているようです。きのこたちがダイナミックに出現し「生き物感」がすごいので、動物と錯覚してしまいます。
それもそのはず。きのこって植物かと思ったら、菌類というのは植物と動物の中間的な存在で、むしろ動物的な生き物なんだそうです。なんと150万を超える種があって、そうした菌類のうち2万種がきのこを作るんだとか。
パンフレットにも登場するベニテングダケ。鮮やかなお姿に惹かれますが、毒きのこ。こんなのがニョキニョキ、ニョキニョキっと大画面で出てきて、インパクトすごかったです。
やっぱりきのこって何とも怪しげなヴィジュアルですよね。
ドキュメンタリーの主人公は菌類学者のポール・スタメッツ氏。幼い時からひどい吃音で他人とうまく話せずに地面ばかり見ていたら、ある日、紫色のきのこに出合って夢中になったとか。なんかすごいエピソード。
若い時に幻覚作用のあるマジックマッシュルームで意識が高揚し、長年苦しんできた吃音が見事に治ってしまった経験から、菌学の研究を始めたそうです。
幻覚作用を持つきのこの使用はアメリカで一時期禁止されていましたが、最近そのきのこの持つ力が見直され、癌・アルツハイマー・うつ病などの治療に役立てようと研究が進んでいるそうです。
映画の中で印象的な場面がありました。うつ病を患っている患者さんに「きのこの幻覚成分」が投与されます。すると患者さんはハイになり、まるで宇宙に包まれているかのような安心感、大いなるものに抱かれているような無償の愛を感じ、涙を流して癒されていくのです。
これをどう感じるかは、観た人によって違うでしょう。怪しい、アブナイ? 私はきのこの持つ力の可能性を肯定的に感じました。幻覚きのこについては、マヤ・アステカ文明の時代から「神の肉」と呼ばれ、祭祀にも使われていたと言います。
映画の中でもマヤ文明の「石像きのこ」が紹介されていますが、なぜ自然界には毒きのこや幻覚きのこがあるのか、それは人間が大いなる自然に畏怖を感じるように存在しているのだと言われます。
医療分野と同様に期待が高まっているのが、環境分野。菌類は油を食べることができるので、流出した石油、汚染物質の除去を始め、生態系の浄化・再生・維持にきのこの力の応用が期待されているそうです。
「きのこは世界を救う」
「きのこは新しいスーパーヒーロー」
美しいヴィジュアルと、秘められたすごいパワーを持っているきのこ。
「きのこ文学」とか「きのこ漫画」とか、そういうジャンルがあるのは知っていましたが、ちょっと怪しげな雰囲気がして近寄らないようにしていました(笑)
今まで食べるばっかりだったきのこ。映画を機に「怪しげな小宇宙、きのこワールド」をもう少し覗いてみたくなりました。